性同一障害ならぬ「種同一障害」を描いた『犬身』
世の中には、身体は男性なのに心は女性の人がいる。その逆の人もいる。こういう人のことを「性同一障害」という。
身体は男性なのに、心は女性。うーん。想像しようとしても、なかなか想像しにくい。そもそも、なぜ身体が男性の人が自分を女性だと思うんだろう。そこが本当にふしぎだ。
性同一障害は身体の状態と、その自認が違うパターンだ。考えを進ませるために、あえて問題を拡大して考えてみたい。
「身体が人間」の人が、「自分は犬だ」と思って苦しんだりするケースはあるんだろうか。
僕は、茶化しているのでもふざけているのでもなくて、世の中の人々のいろんな悩みを極めて真面目に想像するのにあたって、こんな疑問がわいてきたのである。
ツイッターで上記の質問をしたら、すぐにこんな感じのリプライが帰ってきた。
「実際にあるかどうかは知りませんが、まさにそのような状況を描いた小説はありますよ」
マジか。教えてくれたのは編集者の友光だんごさん。本のタイトルは『犬身』という。
読んでみたら、本当に僕の考えていたことに対する答えがドンピシャリで出てきて、びっくりした。心が犬になってしまっている女性の悩みが、実に真に迫って描かれている。こういうことを、僕より先に深く考えている人が、いてくれたのか。
主人公は犬になりたすぎて、ついには魔法で犬になってしまう。犬になりたかった女性が犬になったよろこびも、とても繊細に描写されている。
フィクションではあるけど、種同一障害があるとしたら、きっとこんな感じなのかもしれない。そんなふうに思わせるようなおもしろい小説だった。
現実の性同一障害についても、なんだか多少理解ができたような気がする。実際には僕の想像と違うかもしれないけど、とにかく想像することが大事だ。
↑帯のコピーには「あの人の犬になりたい。」と書いてあって、まるで比喩としての犬のように読めてしまうけど、本当に犬になる話です。